インターステラテクノロジズ株式会社の取り組みと、宇宙ビジネスに懸ける情熱や思いに共感した日総工産株式会社は、人材活用でのパートナーシップ協定締結と出資を決定し、両社のトップである日総工産の代表取締役社長執行役員 清水竜一と、IST社の堀江貴文氏の対談が実施されました。
〈後編〉では両者の対談の様子を〈前編〉に引き続いてご紹介するとともに、パートナーシップ協定の一環としてIST社に在籍出向している、日総工産の研究開発エンジニア・久保将平さんのインタビュー内容や、宇宙開発の最前線に立つ久保さんの思いについても、たっぷりご紹介します!
「宇宙開発で後れをとる = 国家存亡の危機だと思う」(堀江)
「独自のコア技術を自国内で完結することが、とても重要」(清水)
●清水/ロケット開発で、堀江さんが実感している難しい点はどんなことですか?
●堀江/ロケットの打上技術を核などに悪用するリスクが伴うため米国では強い規制をかけていますし、パソコンなどの汎用ジャイロ(回転速度を計る専用機器)は別として、ロケット専用のジャイロは米国から他国に製造を依頼することはなく、他国で製造したジャイロを米国がロケット製造に使用することもありません。こうした国家間の制約は、ロケット製造や宇宙開発でとても難しい部分だと感じています。
●清水/そういう事実って、私たちがなかなか知る機会がないですね。
●堀江/それに、激しい競争下でいろんなリスクを考慮して、ロケット製造のサプライ網を自国完結できている国ってすごく少ないんです。その点でいうと、日本はコア技術はレベルが高いので、その強みを活かして他国の厳しい規制に「言うべきことはきちんと言わせていただきたい」という毅然とした態度を取れる数少ない国でもありますね。
●清水/グローバル化に伴ってサプライチェーン網が海外に敷かれることが一般的になっている一方、独自のコア技術を自国内で完結できることは、ものづくりの観点では非常に大事なことですね。
●堀江/それに、ビジネスとして民間企業が宇宙産業を手がけないと、サプライチェーンが消滅してしまう恐れがある。これって非常に重要で、サプライチェーンが消えるイコール国家存亡の危機、でもあるわけです。
●清水/それだけに、宇宙開発やロケット製造は日本の経済、産業におよぼす影響が大きいということですね。
●堀江/めちゃくちゃ大きな影響力を持ちますし、外交にだって大きな影響が出るはずです。そもそも、自国製造のロケットをもつ国ってそれだけですごくリスペクトされますので。
「宇宙産業を盛り上げる立役者が人材サービス企業」(清水)
「いまが、ロケット開発のラストチャンスなんです」(堀江)
●清水/ここまで堀江さんの貴重なお話をうかがっていてあらためて思ったんですが、それは、国際競争が激化するなかで、産業の競争力や優位性を持ち続けていくためにも宇宙産業を本気でやらなくてはならないという必然性です。日本の産業の成長バロメータのひとつが宇宙産業であり、ここに懸ける本気度が、これから日本の試金石になるのではないか、と。日本は宇宙産業の分野で弱いといわれ続けてきて、携わるエンジニアの数も減っていますが、その一方で当社(日総工産)の社員と接するなかで私が日々感じているのは、宇宙産業に携わりたいと思っている若者が実に多いということなんです。そうした意味でも、宇宙産業で活躍できる人材を育成し、宇宙産業を盛り上げ、ひいては日本の産業をもり立てていける一翼を担う存在が、私たち人材サービス企業ではないかとも思っているんです。
●堀江/おっしゃるとおりだと思います。実際にこれまでも自動車産業を代表とする様々な産業を日総工産さんが支えてきましたし、宇宙産業も同じで、最後はやっぱり“人”なんですよ。
●清水/堀江さんにあらためてそう言われると、身が引き締まりますね(笑)。
●堀江/宇宙開発に限らず優秀な“人”がいなければ話は始まらないし、夢の実現もありえないですよね。ただね、製造業ってイメージ的に一見“地味”な感じがするんだけど、作っているものってみんなが生活のなかでなくてはならないものばかりだし、社会インフラを支えている立役者も製造業なんです。そういうふえに考えると、製造業の仕事ってすごくやりがいってあると思うんです。だから、製造業をずっと支えてきた日総工産さんに僕からぜひ伝えたいことがあるんですが、それは「いまがロケット開発のラストチャンス」いうことなんです。
●清水/かつては日本でも大手から機械製造の小さなメーカーまでたくさんあったけれど、大戦後にその多くが航空事業から撤退していますよね。
●堀江/日本では三菱航空機がスペースジェットを開発・製造していたことがありますが、様々な理由があって断念していますし、かつては日本国内で航空機を製造していた時代もあったんだけど、いつの時代からか航空機の製造ができなくなる国に成り下がってしまった……。例えばブラジルには「エンブラエル(EMBRAER)」という航空機メーカーがあり、カナダにはビジネスジェットの製造を手がける「ボンバルディア(Bombardier)」がある。でも、技術面では日本のほうが高いことは確かなのに、日本では航空機・旅客機が作れない、作らない、という現状にある。
●清水/本当にそうですね。どうして日本はそうなったんでしょうね。
●堀江/大戦後からその状態が80年近く続いていると考えると、僕は「これはもうだめだ」という思いが湧き上がってくるし、この状態をなぜ日本は放置しているんだろうって不思議でしかたがないんです。これって由々しき事態だと思いませんか?
●清水/堀江さんのおっしゃることには、日本の課題に対する提言を含めて私も強く共感します。だからこそ、堀江さんが強く感じているラストチャンスの危機感に対して、私たち日総工産がもっと理解を深めて、どんなことがサポートできるかを、あらためて具体的に考える必要があると思いますし、スピード感をもって眼の前のことを確実に実行していきたいと思います。そのためには、まず私たち日総工産の人材が、一人でも多く宇宙産業に携われるようにならなければいけませんね。
●堀江/そういう意味でも、IST社と人材活用でのパートナーシップ協定を締結したことには、非常に大きな価値があると思っています。
日総工産のエンジニアが、IST社のメカトロニクスグループに出向!
日総工産では、早い段階から宇宙開発はこれからの成長産業になりうる分野であるととらえ、新たなフィールドを担う人材の育成に努めてきました。その結実のひとつが、IST社とのパートナーシップ協定といえます。
すでに日総工産の事業企画本部 エンジニア事業部に在籍するエンジニアがIST社に在籍出向しています。
清水竜一代表取締役社長執行役員と、久保将平さん
久保将平さん Profile
設用車両メーカーの品証部門において、電気・電子部品の解析評価等の専門的知識・経験を必要とする専門業務をエンジニアとして10年以上経験。
IST社への出向が決定した際の日総工産の代表取締役社長執行役員 清水竜一と対面において、久保さんは次のような熱い思いと抱負を語ってくれました。
「最先端でもあり、“ものづくりの総合格闘技”と言われるロケット開発の現場に携われることを光栄に思っています。これまでの経験を活かせること、これから自身のスキルが拡がることを楽しみに、がんばってまいります」
“ものづくりの総合格闘技”へ! 久保将平さんInterview!
久保将平さんの出向先は、IST社のロケットの機構部品などを扱うメカトロニクスグループであり、久保さんは目下のところ、機械・電気電子領域の環境試験などに携わっています。すでに出向から半年以上が経過していますが、久保さんはどのような思いで業務に臨んでいるのでしょうか。インタビュー内容の一部をご紹介しましょう。
Q. 現在、どのような業務に携わっていますか?
●久保 —— 現在、開発部内のメカトロニクスグループと呼ばれるエンジニア事業部 営業1課に所属しています。私が所属する部署では、ロケットの稼働部分や機械的、構造的、電気的なものが複雑に絡み合う部品の検証や評価、ロケット内部に搭載される電子機器を動かす電源として使用されるリチウムイオンバッテリーの充電性能や放電性の検証業務に従事しています ——
Q. どのような点が大変で、やりがいを感じますか?
●久保 —— リチウムイオンバッテリーの充電性能や放電性の検証業務では、温度や充電・放電条件など、様々な検証パターンに取り組む必要があるので、データ取得までに多くの時間を要します。それに、自分が携わっている業務がロケットの稼働に重要な影響をおよぼす技術領域なので、根気、高い集中力、緊張感を常に強いられますが、重責だからこそ言葉にできないやりがいを感じることも多いですね ——
Q. IST本社でロケットの部品を見た感想は?
●久保 —— 工場内には、ひとつ前の世代の小型観測ロケット「MOMO」と、その他にテストを控えた構造部品の燃料タンクなどの様々な部品がありますが、ひとつひとつに先端技術が搭載されています。一見するとなんでもない部品ですが、僕は無造作に置かれた部品からも、宇宙のスケール感やダイナミズムを感じることができました ——
Q. 業務中にどのようなことを感じていますか?
●久保 —— 検証業務って業務そのものは地味なんですが、時間をかけて検証したデータが出揃った段階で可視化されたときに、結果が明確になるやりがいがあります。それに、データをもとに課題や可能性を見出していくことにエンジニアとしての醍醐味を感じますし、自分のスキルを最大限に発揮して、もっともっとお役に立ちたいという意欲もわいてきますね ——
Q. ロケット発射場がある北海道に行った時の感想は?
●久保 —— 最初にロケットエンジンの燃焼器のテストのため、IST社の本社工場がある北海道広尾郡大樹町に行ったのですが、海沿いのロケット発射場がある試験場を見学したときは、現地を訪れた人にしか感じられない音、空気などの臨場感がとてもダイナミックで、画像などの資料で見ていたものとまったく違っていました ——
Q. ロケットのエンジン音を聞いたとき、どんなことを感じましたか?
●久保 —— 見学時は、試験場から300mほど離れた場所でエンジン音を聞く機会をご提供いただいたのですが、ロケットのエンジン音は想像以上にすごかったですね。実際にロケットが打ち上がるときは、これよりもっとすごい音になるんだと考えるだけでなんだか体がゾクゾクして、そのダイナミックな音を実際に聞くことがとても楽しみになりました ——
Q. ISTの本社工場がある大樹町はどんなところですか?
●久保 —— 周囲は牧場や畑など緑地や草原が見渡す限り広がっていますし、道路も地平線の先までずっと直線だったり……。「やっぱり北海道ってでっかいなー」と、北海道らしい素晴らしさを全身で体感できるところです ——
多忙のなか、快くインタビューに応じてくださった久保将平さんは、日総工産からIST社に出向したことで、あらためて「夢を現実に、未来を変える仕事がここにある」と実感したことを笑顔で語ってくれました。
久保さんの輝く瞳が見すえる先には、広大な宇宙空間と、活性化する日本のものづくりの現場が見えているのかもしません。その活躍に大いに期待が寄せられますが、日総工産からのIST社へ出向した久保さんに続き、日総工産でスキルを養ったエンジニアが、宇宙開発の一翼を担えるように、今後も日総工産は、日本の宇宙ビジネスの飛躍に貢献してまいります。広大な宇宙を見すえた新たなチャレンジに、ぜひご注目ください!