
今回は横浜FCの第一線でご活躍されている、C.R.O.内田智也さん(以下、内田)にお話を伺いました。横浜FCの背番号10をつけたこともある元選手であり、当時と立場は異なりますが、愛するクラブのために現在もともに戦っています。
一人の一選手としても元エースの第二のキャリアとフロントスタッフとしての想いに学ぶことばかりでした。
◎3度目の挑戦 期待高まるJ1の舞台
松井)横浜FCにとって今年はJ1に復帰した大事なシーズンです。ここまでの試合はどうでしたか。
内田)今年で4回目のJ1の舞台ですが、今までで一番の手ごたえを感じています。自分たちの特徴である“しっかり守って失点を少なくする”という戦い方ができていますし、守備の強さをベースにこれからもっと良くなるなと思います。ただ、1つのミスも逃してくれない相手ばかりなので緊張感のある試合が続きますし、ミスが出たとしてもそこから学んでどう成長していくかが求められています。
松井)サポーターの方々の熱量はいかがですか。
内田)J1だから、J2だからどうというのはなく、横浜FCのサポーターは熱い人が多いですし、クラブがJ1に定着してほしいという期待感は選手もクラブもすごく感じています。その期待に応えられるように本当に1試合1試合が勝負だと思っています。
松井)私も今シーズン試合観戦に行かせていただいていますが、白熱したレベルの高い試合ばかりでとてもおもしろいです!

◎C.R.O.という役割、自らがクラブの架け橋に
松井)ここからは内田さんご自身についてお伺いしていきます。現在『C.R.O.(クラブ・リレーション・オフィサー)』という役職に就かれていますが、聞きなじみのない言葉でどんな立場なのか知らない方も多いと思うのでどういう役割なのかをご説明していただきたいと思います。
内田)簡単に言えば、人前に出ていく仕事です。アンバサダーのような役割で、クラブのことや選手のことをさまざまなステークホルダーに知ってもらい、横浜FCに興味を持ってもらうような活動をしていくのが僕の仕事です。

松井)C.R.O.に就いて4年経ち、活動していく中でのやりがいや大変なことはありましたか?
内田)自分の性格的にはすごくシャイで人と話すのが苦手だと思っていましたが、実際にこの仕事をしてみると楽しくて。自分を通じて横浜FCを知ってもらえたり、試合を観に来てくれたりファンになったよという人がいてくれたりすることが僕のやりがいに繋がっています。クラブとしてC.R.O.という役割に就いたのは僕が初めてで、前例がないので自分がやっていることが正しいのか、正解がわからないという部分は難しいなと思います。ですが、選手の立場もクラブスタッフの立場も、両方の気持ちを理解しそれを伝えられる人はなかなかいないと思うので、自分ではC.R.O.として活動してきてよかったなと思っています。
松井)10番を背負うなど、横浜FCを代表する選手でもあった内田さんが『C.R.O.』という役職に就任したとき、サポーターの方々の反応はどのようなものでしたか?
内田)僕は選手として2008年に横浜FCから大宮アルディージャに移籍、その後2012年に再び横浜FCへ戻りプレーしました。2016年には香港のクラブに移籍しましたが、その後クラブスタッフとして3回目の横浜FC加入となり、「また帰ってきた!」と喜んでくれたのをよく覚えています。横浜FCには長く在籍した選手が少ないので、サポーターの方々は自分がクラブスタッフとして戻ってきたことにすごく喜んでくれたのではないかと思います。

★現役時代から多くの人に愛される内田さん。愛称は「ハマのプリンス」★
松井)内田さんがC.R.O.になり、クラブのために始めたことはなんですか?
内田)横浜FCはサッカーを通じた地域貢献活動は多かったのですが、いろいろな社会の課題や情勢があるなかで「横浜FCがサッカー以外でどんな貢献ができるのか?」ということを考えました。
市民の方に寄り添って課題解決や社会貢献につながる活動を増やしていくことが横浜FCのファン・サポーターに繋がっていくことだと思い、市民の方との接点を多く持つようにしました。外に出ていくことがだんだんと多くなり、パートナー企業や行政との関わりを持ったり、小学校に行ったりと活動を上げたらきりがありませんね。
◎新たな立場だからこそ見るクラブの課題
松井)横浜FCでは、ホームゲームごとに区民DAYや横浜農場など、さまざまなアクションを起こしていますよね。
内田)クラブとしては、“防災”や“気候アクション”に力を入れています。現代の環境変化は、突然の自然災害によってサッカーができなくなってもおかしくない状況に来ているとも言えます。サポーターの数も多く、社会への影響力をもったサッカークラブだからこそ、災害を防いでいくための啓発活動をどのように進めていくのかを考えるのは僕たちの役割や使命であると思います。
実際に、夏の暑い日は練習が本当に大変だったり、雷で試合ができなかったりすることも増えてきているので、そのようなサッカーへの影響を減らしていけたらと思っています。
松井)素晴らしい活動ですね!逆に、横浜FCに足りていないと思う部分、あるいはこれから取り組みたいことはありますか?
内田)社会的に高齢化が進む中で、シニア層へもっとアプローチしていけたらと感じています。ご高齢の方々が元気にスタジアムに来てくれるというのが僕たちの願いであり、取り組みたいところです。
また、今ホームタウン活動や普及の中で力を入れているのがインクルーシブ(すべての人々を受け入れ、尊重しともに過ごすこと)活動です。横浜FCのホームスタジアムである三ツ沢球技場は施設が古く、まわりの新しいスタジアムに比べると控室やロッカーなどの環境が整っていません。
障がいのある方や日本の国籍じゃない方とも話す機会が多くあり、この人たちが三ツ沢に来た時に本当に楽しめる環境があるのか、と考えたときに施設の問題や環境面で足りてないことが多く、どう改善していくかというのはすごく悩ましい問題だと思っています。自分たちだけでは進まない部分でもあるので時間も労力もかかるというのが難しいです。
松井)私もいつも三ツ沢を使わせていただいているのに、施設環境についてそのように考えたことはありませんでした。たしかに、不便と感じる人もいるかもしれませんね。

◎クラブスタッフという新たなキャリアモデルを担うこと
松井)内田さんご自身がこれから取り組みたいことは何ですか?
内田)クラブスタッフとして横浜FCに戻ってきたときには、“選手を引退した後のモデルケースになりたい”という想いがありました。引退後にサッカー指導者や自分でスクールを開く選手は多いのですが、それだけではなくていろいろな選択肢や可能性があることを伝えていきたいですし、僕に続くような横浜FCの選手も出てきてほしいなと思っています。
そのためにはまずまわりに僕のような人間が必要であることをクラブスタッフの中に理解してもらうことが必要ですし、そういう仕事をやりたいという選手も出てきてほしいですね。


★地元企業と共に清掃活動に参加することも★
松井)男子のプロサッカー選手は自身の将来についてどう考えている選手が多いのですか?
内田)何となく将来を考えている選手はいますが、実際に自分から次の事を考えて動きだしている選手はまだまだ少ないです。そこをどうやって啓発していくかというのはすごく大事なことであり、僕の仕事だと思うので選手たちに伝えていきたいと思っています。
◎ともに歩むクラブ YOKOHAMAを背負って
松井)「横浜FCが地域とともに歩む」ということは、内田さんにとって具体的にどんなことなのでしょうか?
内田)このクラブがあることでサッカーはもちろん、社会課題解決や地域貢献活動などで横浜FCが中心となり、企業と行政や企業と企業、企業とサポーターなどさまざまなところで新しい価値が生まれていくことだと思います。その価値をみなさんに感じてもらえる機会を増やしていけば自然と横浜FCを好きになってくれる人も増え、応援してくれる人も増えていくと考えています。ファン・サポーターの数は、“どれだけ地域に必要とされているか”を測る1つの指標でもあると思うので、こうした活動が“スタジアムを満員にする”ということにも繋がっていってほしいですね。
松井)スタジアムをホームのサポーターで埋めたいですね。
内田)本当にそうです。アウェーチームのサポーターが観客席の多くの部分を占め、さらに試合に負けてしまうこともあると本当に悔しいですよね。横浜FCを知ってもらうためにタッチポイントを増やし、それがファン・サポーターを増やしていくことにつながっていくと信じてさまざまな活動を継続していきたいと思います。
松井)結果が出れば当然ファンは増えるでしょうが、それ以外の部分でもファン・サポーターを増やしていきたいという内田さんの想いがひしひしと伝わってきます。
内田)強いだけではなく、さらにほかの部分でどう人を巻き込んでいけるかというのは常に考えないと、クラブとして長く続かないと感じます。神奈川県はサッカーチームだけでも多くのチームがあり、バスケ、ラグビー、野球といろいろなアクティビティがある中で、週末に横浜FCの試合を選んでもらうというのはなかなか難しいことですが、そこの価値をどうやって上げていくのかというのは僕らの役割でもあり、クラブ全体でそういった魅力を伝えていく努力をしていかないと逆に取り残されていくのですごく危機感を持ちつつ戦っています。

◎クラブの力をスポンサー企業に還元
松井)多くの企業と協力して様々なアクションを起こされていると思います。どんな風にコミュニケーションを取っていますか?
内田)基本的には自分たちの考えというよりは相手が何を考えているのかというのを優先していています。相手がどこに課題を持っているのか、もっとこうしていきたいっていう意思をどこに持っているのかを聞いて、そこに対して自分たちに何ができるのかを考えています。
松井)企業との協業を進める中で、どのような点を大切にされていますか?
内田) どうしたらお互いがウィンウィンの関係になれるのかなというのは常に考えています。僕らの方からは場所の提供や機会の提供することができる。J1になるとたくさんのお客さんがスタジアムに来てくれて、それも横浜FCや対戦チーム、サッカーが好きな人たちが集まります。そこで企業を知ってもらうためにアクションを起こすと、「この企業ってこんなことをやっているんだ」と知ってもらうことができ、その人たちがSNSで拡散してくれると企業ブランディングにも繋がります。
そうした横浜FCの強みが相手の企業さんに合うのかどうかというのは、「こういうのはどうでしょうか?」「いや、そうじゃないんだよね」という意見交換ですり合わせていくしかないですね。結局はラリーを何回も繰り返すことが、答えに一番早くたどり着く方法なのかなと思っています。
松井)最後にNISSOホールディングスに向けてメッセージがあればお願いします。
内田)僕がこのユニフォームを着て初めてJ1を戦ったときは、残留を成し遂げられませんでしたが、またこうして日総さんが戻ってきてくれてJ1で戦えるので新しい歴史を一緒に日総さんと刻んでいきたいです。日総さんもより成長していく、僕たちも成長していくという相乗効果、シナジーを生みながら発展していけたら嬉しいなと思います。

★実際に内田さんが着用していたユニフォーム★
プロ選手の引退後のキャリアというのは明かされていないことが多いのですが、クラブに残って新たな立場で戦う内田さんの姿はクラブを愛する人にとってどれほど喜ばしいものか、改めて再認識しました。選手時代では叶わない地域や企業との関わりを多く持ち、お互いの相乗効果を生み出すことは内田さん自ら行うことでより効果的なものになるのではないでしょうか。莫大なスポーツの力を横浜のために使うクラブに共感や親近感を覚える方は多くいると思います。サッカーを横浜の人々の活力に。またそのサポートは間違いなく選手の力に還ってくると強く思いました。