—— 2024年10月23~25日、ポートメッセなごやにて「Factory Innovation Week 2024〈第1回 製造業の人手不足対策EXPO〉」が開催され、最終日である25日のカンファレンスの中で、「先進的人材戦略のケーススタディから視える生産性向上の実現」をテーマとする〈特別講演〉が実施されました。
〈前編〉では、カンファレンス〈特別講演〉に登壇した日総工産(株)の代表取締役社長執行役員:清水竜一と、資本業務提携先である(株)ツナググループ・ホールディングス代表取締役兼執行役員社長:米田光宏氏によって、今後の産業界で大きな課題となる、2030年の労働需要GAP等が提示され、健全な経営を阻む人手不足、人材不足を解消する、時代の潮流や変化に合わせた新たな人材ソリューション〉の提案がなされました。
〈後編〉では引き続き、〈労働需給GAP解消に向けてツナググループが得意とするコンサル領域と、日総グループが得意とする人材採用・教育を掛け合わせたサービスを、製造業を中心とした多業種のお客様に提供していくことの重要性〉についてリポートします!
カンファレンス〈特別講演〉リポート⑤
自社内の人材に新たなスキル教育を投下する循環型採用へ
司会 労働力が豊富だった時代の日本では、多くの産業や企業で大量採用、大量離職を繰り返してきました。一方で労働人口が減少している現在、そして今後は、どのような採用スタイルが見込まれているのでしょうか。
米田氏 「製造業の就業人口がこの20年で150万人減少していることが直近のものづくり白書で示されていますが、実は、働く人の多くが製造業がいやで離業したわけではなく、ある調査によると週38時間働く人のなかで、いま以上に働きたいと考えている人の数が約200万人にものぼることも判明しています。この200万人のうち10%の20万人が個人事業主、残りの180万人が正規雇用、派遣雇用者で、この180万人のうち製造業に従事する約30万人が「もっと働きたい」という意欲をもっていることもわかっています。
清水氏 「製造業に従事する約30万人が〈もっと働きたい〉という意欲をもっているけれど、思うように働けないというミスマッチは、単に処遇改善などの要因にとどまらず、働く側のスキルが企業のニーズに見合ったスキルではないという問題に起因していることも多くなっています」
米田氏 「先ほどお話ししたように、2030年には製造業で約38万人の労働者需給GAPが生じると見込まれていますが、もう少しマクロな視点に基づく産業界全体での180万人の需給GAP、さらには製造業の38万人の需給GAPを解決することが、わたしたちツナググループに課せられた使命でもあるわけですが、需給GAPを解消する方法は多岐にわたる半面、企業側においてもライフワークバランスや待遇改善などにいち早く取り組むことが、非常に重要です」
清水氏 「これまで日本企業では〈教育、研修、訓練はアウトソーシングせず、自前で魂を込めて行うもの〉という考え方が一般的でしたが、今後は自社で教育、研修、訓練を行うことは非常にハードルが高くなると予測されています。それはなぜかというと、日進月歩で進化しているテクノロジーの最新・最善の教育、研修、訓練を自社で行うことは非常に難しくなるからです。特に、人材不足を経営課題とする企業ほど、テクノロジー活用と平行して、自社の人材に新しいスキル教育、キャリアチェンジなどの機会を提供する“リスキリング”が非常に重要になってきます」
カンファレンス〈特別講演〉リポート⑥
効果的かつ費用対効果の高い教育投下が、企業のミライを意味づける
米田氏 「新しいスキルを身につけることで新しいチャンスを創出する“リスキリング”は、人材開発の手立てや研修設備など新たな環境を整える必要がありますし、それを自前で行うと、外部の講師の依頼、コスト、設備、時間、手間などを要することになります。さらに新しい人材の採用についても、欲しい人材を外部から積極的に採用するという従前の大量採用、大量離職を繰り返す方法は“源泉かけ流し的”な古い採用手法に変わりつつあり、今後は、自社内の“いまある人材”に新たなスキル教育を投下する、あるいはキャリアチェンジのチャンスを提供する“循環型採用”に変化すると見込まれています」
清水氏 「自社内に教育施設を展開する日総グループでは、これまでもお客様が求める高い実践力を有した人材教育を実施し、お客様の希望に適う人材派遣・紹介していましたが、近年、トライアルとして、お客様が採用した新卒者の教育を当社が担い、教育前と教育後のスキル・意識等の変化をチャート化してみたんです。このトライアルでは、自社内で手間・コスト・時間をかけて教育するメリットと、教育をアウトソーシングするメリットについても数値化して比較したのですが、結果、オートモーティブ、セミコンダクタ、エレクトロニクス等の先端領域の多数のお客様から、スピード感を伴ったOFF-JTでの学びや、付加価値を高める人材育成を日総グループにアウトソースすることに、なんら問題ないという判断を頂戴することができました。こうしたトライアルが実を結び、現在は半導体関連メーカーや車載バッテリーの分野で大型人材育成プロジェクトがすでに稼働していて、当グループで専門教育を受けた人材が今後、多様な先端領域で多数活躍すると見込まれています」
米田氏 「FA、AI、DX、生産モデルの変更といった多様な変革が起きているなか、人材にいかにして最も効果的かつ費用対効果の高い教育を投下していくか……が、その企業のミライを意味づけるものになるといえますね」
リスキリング(Re-skilling)とは?
「リスキリング」は、企業が主体となって従業員に新たな技能や知識を提供する教育を指し、従業員は実務を続けながら必要なスキルを再習得することを指します。
経済産業省はリスキリングについて、「新しい職業に就くため、あるいは今の職業で必要なスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。
ちなみに、リスキリングとよく似た言葉に「リカレント教育(Recurrent=繰り返す」「循環する」)」があります。「リカレント教育」とは、従業員が現在の仕事から一時的に離れ、大学やビジネススクールなどで学び直し、スキル習得後職場に復帰する場合や、新たな職を探すことを指します。
このことから、2つの言葉には次のような違いがあります。
「リスキリング」……企業が主体となった学び
「リカレント教育」……従業員の自発的な学び
カンファレンス〈特別講演〉リポート⑦
自社での“リスキリングと、アウトソーシングする“リスキリング”の違い
米田氏 「“リスキリング”には様々な手法、または意味がありますが、企業では一般的に人事部が人選した社員によって、自社のノウハウや経験値、自社データなど自分たちが得た情報をもとに能力開発や社員研修を行っています。一方で、“リスキリング”をアウトソーシングしている企業では、多様な企業のノウハウや知見が織り込まれた教育を受けるメリットがありますので、能力開発や社員研修を外部に出したほうが効果が高いとことも確かな事実です」
〈自社内で行うリスキリング〉
●人事部が人選した自社社員が講師を務めることが多い
●自社のノウハウや経験値がベースになることが多い
●マニュアル、研修施設、環境などを自前で用意しなくてはならない
●自分たちが得た情報をもとに能力開発を行うことが多い
●最新テクノロジーが反映しづらいため、新人社員研修では、
数年遅れの内容になることがある〈リスキリングをアウトソーシング〉
●その分野・領域のエキスパートが講師を務める
●最新の内容をもとに、能力開発や研修を行うことが可能
●業界、競合など、幅広く多角的なノウハウや経験値がベースになる
●業界、多様な企業・競合などの、最新情報をもとに能力開発を行える
●他社の好事例をもとに、教育効果が高いスキルアップを図れる
清水氏 「もちろん、私たちはお客様と守秘義務を結んでいますので、個別のお客様の情報を外部に出すことはないのですが、実際に多くのお客様から〈自社でも◯◯しているけど、他社ではどのようにしているのか?〉というご質問を高い頻度で受けます。こうした声の多さからも、多くのお客様が自前でリスキリングすることの難しさを実感しておられると感じています」
米田氏 「あわせて近年は、外国人雇用の法規制が改正されていますし、さらに働き方においても、同一労働同一賃金、社会保険の適用拡大など法的な部分でも大きく様変わりしていています。このことから、自前でリスキリングする企業では、その企業の人事部に社会構造の変容に関連したリーガル対応のキャッチアップから、戦略的な人材開発、人員配置、リスキリングによる人材の再活用などの手間暇が一気に押し寄せ、その業務量は膨大になります」
清水氏 「戦略的に欲しい人材を採用し、その貴重な人材を育成し続けていくためには、〈職位•職種別教育〉〈キャリアパス制度の確率〉〈エンゲージメントの向上〉、そして〈リスキリング〉の4つの要素を整える必要があります。加えて、自社社員の定着率を高めるために、自社社員=人材にとってのインセンティブを高める仕組みを創出することも、私は非常に重要なポイントだと考えています」
カンファレンス〈特別講演〉リポート⑧
「競争」から「、共創」の輪を拡大・加速するために
—— 一般的な企業の業務環境は多くの場合、上図①のように著しい環境変化のなかで人事部に責任、リソース、スキルが求められる仕組みになっています。一例として、日総グループとツナググループにアウトソーシングを依頼・実施した場合、専門性の高い“リスキリング”と、人事をはじめとする組織のワンストップ化(図②)が実現することも提案されました。
参考までに、Relevant(レレバント=市場・産業界・企業と自分の関連性が常に高い状態でいる)という言葉や概念が定着する米国では、レレバントでいるため、さらには、業界や企業で求められる人材でい続けるため、「学び続けること」もひとつのスキルになっています。
こうした考え方から米国では、すでに人事業務のアウトソーシングが一般的なものになり、“リスキリング”によって高いスキルを有した人材の社会的位置や待遇の向上が実現しています。さらに米国では、企業において効果的な“リスキリング”を実施することが、結果として、離職率を下げる効果も実証されています。このことから今後の日本でも、人事業務や効果的な“リスキリング”のアウトソーシングが一般的な仕組みとして定着すると考えられています。
カンファレンス〈特別講演〉リポート⑨
最も重要なことは、課題を一緒に解決してくれるパートナーをみつけること
—— 最後に清水氏の言葉を添えて、第1回 製造業の人手不足対策EXPOでのカンファレンス〈特別講演〉の内容のリポートを締めくくりたいと思います。
清水氏 「いつの時代も、お客様の意向を最大限尊重しながら、お客様の人材ニーズや課題にスピーディに対応していくことが私たちに課せられた使命であることにかわりはないのですが、若者の就業観や終身雇用制度等の労働市場の様変わりや、かつてないほど速い環境変化のなかで、お客様が自前でその速くて激しい変化に対応することには限界があるという事実を私たちは熟知しています。
本日は、今後の日本の労働環境の変化を乗り越えるための、リスキリングをはじめとする効果的な人的リソースの活用についてお話ししてきましたが、これからの時代は、お客様が抱える課題を一緒に解決してくれるパートナーを積極的にみつけ、そのパートナーとともに顧客満足度、生産性、利益率を高めることで、市場や人材から“選ばれる会社”になることが、とても重要だと考えています。
そうした意味において、わたしたち日総グループとツナググループは、お客様とタッグを組んで課題を解消に導き、“選ばれる会社”にふさわしい新たな価値を共創するパートナーになりうると信じています。
人手不足、人材不足はもとより人材にかかる課題を抱えている企業のオーナー様は、わたしたちが培った知見やノウハウをもとに全力でサポートいたしますので、ぜひお気軽にご相談いただければと思います」