
人手不足が慢性化すると、十分なサービスを提供できないだけでなく、廃業・倒産に追い込まれるリスクも高まるため、人手不足を課題とする企業ではパート、アルバイト、派遣社員や海外からの労働力に頼っていることが多いといえます。しかしそのほとんどが、業務をまわすことだけを目的とした“一時的な人手”にとどまっています。
その中でも2004年に製造業務への労働者派遣解禁以降、あらゆる製造メーカーが派遣社員を受け入れるようになり、その数は増加の一途をたどります。
しかし、2008年のリーマンショックに端を発する世界同時不況による影響で「派遣切り」と呼ばれる社会問題が発生し、派遣という働き方に対して疑問を持つ方が増えました。
そういった状況に対して2015年の法改正により、「派遣労働者のキャリアアップ措置」が義務化され、派遣労働者を単なる一時的な労働力として扱うのではなく、派遣先・派遣元が協力してキャリアップを目指せるように支援していく事が求められるようになりました。
本記事では、その概要を解説したうえで、日総グループが取り組む様々な派遣労働者のキャリアサポートや、キャリアに関連した独自のビジネスモデルについてご紹介いたします。
業務のデジタル化により、新たな課題となったリスキリング
超高齢化社会に突入した日本では、65歳以上の人口が増加する反面、生産年齢人口(15〜64歳)は減少の一途をたどり、生産年齢人口がピークだった1995年の8716万人に対し、2065年には約半分の4530万人(※1)になると見込まれています。
※1内閣府「人口減少と少子高齢化の調査」https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/2zen2kai1-2.pdf
国や産業界は、生産年齢人口の減少に伴う人手不足を見すえ、「業務のデジタル化」を推進してきました。しかし、業務プロセスにデジタルテクノロジーを導入したら、“それでよし!”というわけにはいきません。人手不足解消や生産性向上のパフォーマンスを最大限発揮するには、先端テクロノジーやITスキルを有した人材が必須であり、特に中小・零細企業では、デジタル化に伴って自社従業員のスキル向上、学び直しという新たな課題が顕在化することになったのです。
こうしたバックグラウンドから、「リスキリング(re-skilling)」というキーワードを見聞きする機会が増えるようになりましたが、ここ数年リスキリングが大きな注目を集めている理由は、単にre-skillingを直訳した「技能の再習得」「再教育」の意味にとどまらず、時代性に即した新たな意味が込められていることによります。
【リスキリング(re-skilling)とは】
リスキリングは、キャリアの効果的な形成、パーソナライズに基づくキャリアパスの転換・再設計、新しい技術や知識のアップデートによって得られるポテンシャルの広がり、キャリアチェンジや新業務へのスムーズな移行やチャンス獲得、スキルセットのリセット、個人と組織全体の成長を推進する学びなど様々な意味を含んでいます。つまりは、理想とする未来の自分像や成功をたぐり寄せるための積極的な準備が、リスキリングなのです。
リスキリングを強化する企業が急増する意味
社会やテクロノジーが著しい変化を遂げる今日、個人の自発的なリスキリングとあわせて、企業においてもビジネス環境の変化に対応する従業員のリスキリングが重要視されるようになっています。
例えば、デジタル技術を活用して既存プロセスやビジネスモデルを根本的に革新するデジタル・トランスフォーメーション(DX)を採用する企業であれば、DXを構成する多様なテクロノジースキルを有した人材が自社内にいるか、いないかが、DX採用の成否のカギを握っているといえます。
こうしたケースと同じように、新規事業の立ち上げを中長期の戦略とする企業の場合、従業員のリスキリングを強化する“人材リソースの活用”を強化することで、戦略の実効性を高めるケースがここ数年急増しているのです。
ただし、従業員の技能訓練の機会提供、能力の再構築などは、比較的規模が大きく、福利厚生などの制度が整備されている企業に多く、その対象も正規雇用の社員であることが一般的でした。
そんな「大手企業&正社員」という“偏り”にメスを入れ、非正規雇用の派遣労働者にもあまねく教育訓練やキャリアアップの機会を提供することで、雇用形態に関係なく労働者が自らの希望に基づいてキャリアを形成できる……という考えに根ざしているのが「派遣労働者のキャリア形成支援」なのです。
派遣労働者のキャリア形成支援とは
「派遣労働者のキャリア形成支援」とはその名の通り、非正規雇用の派遣労働者を対象にしたキャリアコンサルティングサポートになります。
「派遣労働者のキャリア形成支援」では、最初に派遣労働者の職業選択や生活設計、または能力開発やスキル向上などの相談に応じて、キャリアプランの道筋を明確にしていくことからスタートします。
次に、明確にした道筋にそって、知識・技能・スキルの習得や、資格取得、仕事の選択を含めた就業経験など、派遣労働者にとって有意義なキャリア形成のための教育訓練に取り組みます。これらの段階的かつ体系的な取り組み(キャリアコンサルティング)を「キャリア形成支援」と総称します。
【キャリア形成支援の基本的な考え方】
キャリア形成支援を進めていくにあたっては、雇用主は派遣労働者の希望に応じて、派遣就業を続けながら専門性の向上や職務の幅の拡大等を図っていくことや、正社員化や直接雇用化などにより、待遇の向上につなげていくことが重要です。
また、改正労働者派遣法において、派遣労働者のキャリア形成を図る責任は雇用主である派遣元が負うべきであるとの考えに立ち、初めて、派遣元事業主に派遣労働者のキャリア形成に関して、以下の2つの責務が設けられました。
● 段階的・体系的に必要な知識や技能を習得するための教育訓練
● 希望者に対するキャリアコンサルティング
【キャリア形成支援の進め方】
(1)派遣労働者への情報提供・意識啓発
HP・小冊子・社内報等のコミュニケーションツールを用いて、情報提供や意識啓発を行う。
(2)派遣労働者の志向・能力の把握
派遣登録~就業~契約更新などあらゆる機会を通じて、その志向や能力を正確に把握することが必要。
(3)派遣労働者へのキャリアコンサルティング
キャリアコンサルティングを通じて、現状分析から将来の展望までを共有し、知識・資格の習得や派遣先の選択等に配慮する必要がある。
(4)派遣労働者への教育訓練
派遣元事業主は、策定した教育訓練計画に基づいて、段階的かつ体系的な教育訓練を自主的に実施し、費用面でも受講しやすくすることが望まれる。
(5)派遣労働者への教育訓練の内容
「基礎的・共通的な教育訓練」から「分野別・専門的な教育訓練」まで、計画的・段階的に取り組むことが求められる。
(6)派遣労働者の雇用の安定とキャリアの継続
派遣先への直接雇用、派遣先の変更、派遣元による無期雇用への転換などの雇用安定措置を講じることが必要。
※「派遣労働者のキャリア形成支援」について詳細が知りたい方は、平成28(2016)年度厚生労働省委託事業をまとめた「派遣労働者のキャリア形成支援のために」(日本人材派遣協会 一般社団法人)をご参照ください。
日総工産が実施しているキャリア形成への取り組み
日総工産では、様々なキャリア形成サポートを実施しています。ここからは、その一部を抜粋してご紹介します。
【実践的エンジニアの育成拠点を九州に開設】
半導体メーカーの集積エリアであり、熊本でのTSMC社※の新稼働に伴って世界の熱視線が注がれている九州は、今後も数多くの半導体関連の新工場建設が計画されていることから、即戦力を有したセミコンダクター・エンジニアのニーズがすでに顕在化しています。
※世界のファウンドリ市場で世界最大のシェアを獲得する 台湾積体電路製造企業
日総工産が業界内でいち早く九州に立ち上げたのが、最新鋭の半導体製造装置と実践的教育カリキュラムに基づく技術人材の育成拠点「日総テクニカルセンター熊本」(2023年4月開所)です。
同センターは、エンジニアのキャリア形成に向けた段階的かつ体系的な教育訓練などの体制整備をはじめ、半導体メーカーのニーズやエンジニア本人の希望に応じて、志向や能力をフレキシブルに高められる教育制度の構築によって、メーカーのニーズに応えられる人材の育成を可能としています。こうした「日総テクニカルセンター熊本」が実践する人材育成とキュリア形成のスキームは、業界内外から高い注目を集めています。
また、同センターで学んだ後に半導体製造の最前線で活躍するエンジニアに対し、多くのメーカーからオープンと同時に申し込みや問い合わせが集中・殺到し、予想をはるかに上まわる人材ニーズが顕在化したことで、延べ床面積を約2.5倍、育成能力3倍となる新施設の増床が完了(2024年5月)。現在は、当初の3倍となる年間300人以上の研修対応人数を誇る規模を実現しています。
【お客様のニーズにそった、充実の研修内容】
日総グループでは、製造業をはじめとするお客様の人材ニーズに応えるべく、創業以来50年以上にわたって積み重ねてきた人材育成のノウハウをもとに、自社運営のテクニカルセンターなどの教育訓練施設を全国に展開しています。
また、大手自動車メーカーや大手電子部品メーカーをはじめとする多くの企業の新入社員の教育訓練やリスキリングなどをお手伝いするなかで独自に開発した研修受託サービス「NISSO HR Development Service」は、新入社員、ものづくり、安全衛生、管理職などの多彩な研修に対応しています。そのほか、以下のようなフレキシブルな対応力によって、大手企業やメーカーだけでなく、地方自治体からも高く支持・評価されています。
● 大手メーカー出身の講師陣が、お客様のニーズにそってカリキュラムをカスタマイズ
● お客様の要望にそって、経験豊富なコンサルタントが研修をカスタマイズ
● 人材サービス会社ならではの見地を蓄積した充実の研修内容
● 講師をお客様に派遣する出張研修にも、フレキシブルに対応
【契約期間に定めのない正社員としての採用とキャリアアップ】
有期雇用の場合、同一の「組織単位(課など)」において同じ派遣労働者が継続して働ける期間は最長3年までと法に定められています。
一方で派遣元での雇用形態が無期雇用であれば、派遣先は原則期間の制限なく派遣の受け入れが可能となり、60歳以上の派遣労働者なども期間制限はありません。
このルールによって、大手メーカーの工場で働く日総工産の技能社員は、日総工産の正社員であるため契約期間の定めはありません。つまり、長期的に日総工産の正社員として活躍する(働く)ことができます。さらに、給与は月給制、年に2回のボーナスも支給されます。
日総工産に雇用された正社員は、年に1回の昇給のほか、キャリアパス制度を利用して自動車の組立・検査の技能社員として大手自動車メーカー勤務から営業・採用のフィールドに異動して総合職として活躍するといった人もおり、本人の希望に応じたキャリアチェンジも行っています。このようにキャリアアップの体制が充実・完備されている点も、日総工産の社員にとって大きな魅力になっています。
【日総工産が展開する様々なキャリアアップサポート】
その他、日総グループの人材育成やキャリア開発支援に従事するキャリアコンサルタント(有資格者)が、日総工産の社員のキャリアプランニングに、キャリアパス(異動や昇進など)の相談に乗る機会も豊富に提供しています。日総工産では、研修プログラムや定期面談、カウンセリング等を通じた様々なサポートをとおして、一人ひとりが思い描くキャリアプランの実現を手厚く支援しています。
—— 生産年齢人口が減少し、“人”に関する様々な課題が顕在化している今日、非正規雇用の賃上げを妨げている「年収の壁」への議論も活発化しています。こうした様々な取り組みや変化によって、正規雇用と非正規雇用の間にある垣根や壁は、従来のものよりだいぶ低くなってはいますが、それでもなお、垣根や壁は依然として存在します。
今回ご紹介した「派遣労働者のキャリア形成」と、日総グループのキャリア形成への取り組みが見すえる先にあるのは、意欲のある人が平等にスキルを高め、キャリアを形成することで仕事への満足感を高め、充実した人生を過ごしたい……という、働く人すべての願いや想いだといえます。
その願いや想いの実現に向けて、わたしたち日総グループは「人を育て 人を活かす」の創業理念の下、今後もキャリア形成支援の取り組みをより深化させることで、お客様、そして、産業界に貢献していきたいと考えています。