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横浜市消防音楽隊にインタビュー| “音楽で命を守る“という使命―奏でる防災のかたち

2025.06.13
横浜市消防音楽隊にインタビュー|   “音楽で命を守る“という使命―奏でる防災のかたち

今回はNISSOホールディングスが協賛する横浜市消防音楽隊の皆さんにインタビューを行いました!

 

 

横浜市消防局に所属する専任の演奏隊である横浜市消防音楽隊は、“安全・安心を実感できる都市ヨコハマの実現”を目指し市内各地での演奏活動を通じて防災広報を行っています。
また、1982年に結成されたドリル演技チーム「ポートエンジェルス119」は、音の出ないストレートトランペットという演技用の楽器を使い演奏と演技の両面から市民に防災の大切さを伝える活動を行っており、その華やかで力強いパフォーマンスは多くの人々に親しまれています 。

今回は4名の方にインタビューを行いました。

小林さん(消防音楽隊隊長) / 稲葉さん(消防音楽隊副隊長/ホルン) / 足立さん(消防音楽隊楽長/指揮) / 奥屋さん(広報担当)

以下敬称略

 

 ◎消防音楽隊の誕生――災害から市民を守る“橋渡し” としての役割

 

松井)横浜市消防音楽隊の設立について教えてください。 

小林[消防音楽隊隊長])横浜市消防音楽隊は1958年、横浜開港100周年と市制70周年を記念して創設されました。市民に親しまれる消防を目指し、音楽を通じて防災・減災の意識を広めることが目的です。演奏だけでなく、ストレートトランペットを使った演技なども取り入れて、より多くの方に親しみを持っていただけるよう工夫しています。

松井)音楽と防災というのは一見異なる分野のように思えますが、どのように繋げているのでしょうか?

小林)私たちは、さまざまな場所へ出向き、演奏を行っており、その際には必ず防災広報もセットで行っています。たとえば今の時期(6月)であれば、熱中症対策についてお話しします。音楽をきっかけに防災に関心を持っていただくことが私たちの大きな役割です。

稲葉[消防音楽隊副隊長/ホルン])防災に触れる機会が少ない方でも、音楽には関心がある方は多いです。演奏を聴きに来てくださった方に、音楽を通じて防災の大切さを伝える“橋渡し”のような存在になれたらと思っています。

 

 

左から稲葉さん、小林さん、足立さん、奥屋さん 

 

小林)既に知識のある大人の方だけではなく、子どもたちにも活動を知っていただき、家庭内で防災活動が広がっていけばと思いますね。 

奥屋[広報担当])子どもたちは話を聞くだけでは飽きてしまうので、横浜市民防災センターのキャラクター「広報宣隊 防センジャー」によるヒーローショーや○×クイズ、紙芝居などを取り入れています。火災や地震、風水害などをテーマに、楽しく学べるよう工夫し、演奏会の合間にこうしたプログラムを挟むことで、自然に防災意識を育てています。 

松井)演奏だけではなく演技までされることが本当にすごいですね。また、「防センジャ―」をはじめとした様々なアイデアを盛り込まれていることが素晴らしいと思います。 

ちなみに「防センジャ―」の中の人はどなたなんですか? 

奥屋)秘密です(笑) 

 

 

松井)そんな皆さんの想いがこもった演奏会ですが、年間でどれぐらい演奏派遣や公演をしているのですか? 

小林)昨年度(令和 6 年度)は1 年間で 176回 の派遣演奏に行きました。 単純計算で2日に1日はどこかで演奏していることになります。 

松井)すごいペースですね。その合間にまた練習されていますよね。 

稲葉)全体練習は1日約 2 時間ぐらいです。ポートエンジェルスの隊員はそれ以外に訓練室で演技練習もするので、午前中は演技練習をして午後は合奏練習という形です。 

足立[消防音楽隊楽長/指揮])横浜市消防音楽隊は全国でもすごく珍しい“専務隊”で楽器を演奏することが仕事です。隊員は音楽大学で専門的に音楽を勉強している者も多く、個人の技術も演奏レベルも高いものになっています。 

私は元教員で、現在は音楽専門の消防事務職として活動しています。消防吏員でなくても音楽隊に所属できるのは、非常に恵まれた環境だと思います。 

松井)演奏曲の選定はどのように決めているのですか? 

足立)定期公演や大きなイベントでは私も加わりますが、基本的には隊員たちが話し合って決めています。演奏をする隊員自らが主体的に動くのが、この隊の凄いところです。 

小林)私が音楽隊の隊員を見て驚いたのは、各担当が最初から最後まで責任を持って計画を立てていることです。新しい曲に取り組む際も、「この日に合奏練習を始めます」と決めたら、それまでに全員が演奏できる状態に仕上げてくるのが前提です。 

足立)早ければ 1 週間で新しい曲を合わせます。各々の高い演奏スキルと、専務隊として日々活動しているからこそのスピード感は横浜市消防音楽隊の大きな強みです。 

 

★一般非公開の練習室に特別に入れていただきました★ 

 

◎横浜市消防音楽隊の象徴 ポートエンジェルス119 

 

松井)ポートエンジェルス119について教えてください。 

小林)消防音楽隊は39名おり私と奥屋を除いた35名で楽器演奏をし、うち20名がポートエンジェルス119として演技も担当しています。 

 

 

★ポートエンジェルス119のドリル演技★

 

松井)最初は皆さんストレートトランペット初心者ですよね。 1人前になるまでどれくらいかかりますか?

稲葉)早い方で大体3~4ヶ月くらいでポートエンジェルスのデビューをして1 年かけてステージドリルや行進など、順々にデビューしていく形になります。

奥屋)ポートエンジェルスの演技の仕方はパレードのように行進で動きながらの演技や限られた舞台スペースでの演技、少人数で演技などがあります。演技の仕方それぞれで動きが違うので、すべての演目を習得するのは大変だと思いますね。楽器の練習もやりながらですからね。

足立)演奏と演技の両立は難しいからこそ大変です。準備体操として筋力トレーニングを取り入れていますので、運動経験の少ない隊員にとっては最初はハードに感じられるかもしれません。

松井)皆さん姿勢が良くて、動きが揃っていて感動しました。その経験がなくてもできるようになるまで努力されているのですね。

 

★ストレートトランペットを持たせていただきました…!!!★ 

 

◎心に響く音を、命を守る力に 

 

松井)稲葉さんは、なぜ消防音楽隊に入ろうと思ったのですか? 

稲葉)吹奏楽部に所属していた高校時代に先生から「音楽隊の増員予定がある」と声をかけていただいたのがきっかけです。もともと卒業後も音楽を続けたいと思っていたので、受験して入隊しました。それからもう30年ほど消防音楽隊に在籍しています。特殊な業種なのでここまで同じところに長くいる人は数名しかいないですね。 

松井)30年間の活動のなかで強く印象に残っている演奏会や、イベントはありますか? 

稲葉)とくに印象にのこっているのは東日本大震災の慰問演奏です。宮城県と岩手県の避難所での演奏に、皆さんとても喜んでいただいたのが忘れられません。もちろん2002 FIFA ワールドカップ 韓国/日本やジャパンラグビーリーグワンの際に日産スタジアムで演奏させていただいたこともすごく印象に残っていますが、やはり横浜市を離れて被災地で演奏させていただいたことは、特別でした。 

松井)やりがいを感じたり、達成感が得られる瞬間はありますか?

稲葉)被災地でもそうですが、この横浜市内でもお客様と演奏した曲目がマッチしたときに『やっていてよかったな』と思います。聴いてくださる皆様が涙を流していただくこともあり、その時は冥利に尽きる思いです。 

松井)活動していく中で大切にしていることはありますか? 

足立)消防音楽隊の一番大切な使命は、市民の防災意識の育成だと考えます。そのため、派遣の際には、防災広報の時間を設けています。 

そして私自身がとても大切だと思うのは、“音楽そのものの持つ発信力と力”です。教員時代もこの音楽隊でも「今日の演奏に力をもらいました」と喜んでいただけるときには、音楽の力というものを感じざるを得ません。 

また、隊員の皆さんはプロフェッショナルでとても上手ですが、だからと言って 1 回1 回の本番は絶対手を抜きません。皆さん真剣に練習して、少しでも良い演奏をと取り組んでいます。そういった気持ちをいつも大事にして、音楽にもそれから聞いてくださる人にも真摯に向き合っていきたいです。 

稲葉)防災広報はすごく大事です。私たちが一生懸命に演奏し、防災の話をすることで、「自分も防災に力を入れよう」と思ってくれる方が1人でも増えたら、それが命を守る行動につながるかもしれません。そう思って活動しています。 

松井)私は今日初めて防災センターに来ましたが、やはり音楽はすごく記憶に残るので、それに防災が絡むときっと今後音楽に触れるたびに私は今日のことを思い出しますし、それが本当に何かあった時活きてくるなと心から思いました。 

小林)ありがとうございます。すごく嬉しいですね。 

 

パネルを使った防災広報の様子

 

◎音楽で伝える防災が横浜の未来をつくる 

 

松井)これからの活動でどんな人に届けていきたいですか? 

稲葉)我々が演奏する時間は平日の昼間が多く、どうしても演奏を聴きに来ていただけるお客様の年代が偏ってしまいます。働いている方や学生さんには届けられない部分があるので、土日に開催している自主企画コンサートを通じて今まで聞いたことない方にも聞いていただければ嬉しいです。 

足立)浜市の施策と連携して子育て世代にもいろいろなものを伝えていけたらと思います。 

奥屋)子育て世代の方にとって防災は興味あるけど、時間がなかったり、馴染みのないコンテンツだったりするのでその架け橋になれたらいいと思います。 お客様の世代に合わせた曲を選ぶため、お子様向けの曲目も演奏します。手遊びやダンスをする曲もあるため、結構盛り上がりますよ。 

松井)それはとても楽しそうですね!音楽隊の皆さんも踊るんですか?

足立)はい、音楽隊の隊員も一緒に踊りますよ。ものすごく上手で。すべてに手を抜かず何事も全力でやられるからすごいですよね。 

小林)音楽ってすごく伝える力があると思います。  お子様からお年寄りまでいろいろな方々に届けることができますからね。聴きに来ていただいた方がさらに市民防災センターで災害体験していただいたり、実際に何かあったときに「あ、そういえば市民防災センターでこんな話していたな」と思い出していただいたりしてほしいです。 

 奥屋)消防局は InstagramやFacebook、XなどSNS発信を行っていますが、音楽隊に関する投稿は自分たちで考えています。例えば、災害時に役立つ簡易おむつを作る方法や消防設備クイズなど防災を絡めた発信も行っています。どこで撮影しようかとか、どんな内容でやろうかというのも隊員たちのアイデアで実現しています。よかったらSNS も見てみてください。 

松井)フォローさせていただきます! 

最後に消防音楽隊の魅力をズバリ一言で言うと何ですか? 

足立)やはり演奏されている方の笑顔じゃないですかね。どこに行ってもすごくいい表情で演奏していただけるので、それを見たら本当に元気もらえるのだろうなと。 

小林)私は演奏中に足立さんのお客様に促すような手拍子が大好きです。足立さんの手拍子に合わせてお客様もとても楽しそうに笑顔になっていただけます。

稲葉)逆に、ポートエンジェルスの演技中の崩れない、締まった顔もすごくかっこいいですよ。楽器演奏中には笑顔で、ポートエンジェルスの時は凛々しいというギャップがあります。 

 

左:稲葉さん、右:小林さん 

 

何事にも全力で取り組み、人々に感動を伝える横浜市消防音楽隊の皆様。 

市民に感動を与えるとともに防災意識を伝え、暮らしを守っています。音楽には伝える力と記憶に残す力があると身をもって実感しました。 

また実際の演奏を聴いたとき、奏でられた音の強さと華やかさに圧倒されつつ、体の内側からエネルギーが沸いてきました。音楽隊が市民に与えているものはこのパワーだと思います。この記事を読んでくださった皆さんにも是非体験していただきたい瞬間でした。 

次回の記事では実際に演奏会に行ってきた様子を今までとは違う形でお伝えします。 

お楽しみに!!!