
皆さん、トレイルランニングという競技をご存じですか?
マラソンでもない、ただの登山でもない、舗装されていない登山道や林道を走るスポーツです。
NISSOホールディングスのグループ会社である、株式会社アイズにはそんなトレイルランニングで日本有数の記録を持つ社員がいます。
今回の記事では、株式会社アイズとはどんな会社なのか、トレイルランニングとはどんなスポーツなのか、荒井社長(以下、荒井)と塚田社員(以下、塚田)のお二人にインタビューを行いました。
◎“モノ言う人材会社“ アイズ設立の想い
松井)株式会社アイズの事業内容と創設時の想いを教えて下さい。
荒井)製造とIT業界向けのアウトソーシング全般を事業としている会社です。
この会社を起業する前は、日総工産のライバル会社にあたる人材業界の企業に長く勤めていました。当時の人材業界全体がかなり右肩上がりの時期で、最盛期には月に1000人以上もの採用をしていましたが、採用後長く続く人は少なく、半数の500人が辞めてしまいます。その辞めていく 500 人に対して何もクローズアップされないことがすごく切なく、「この業界はこれでいいのか?」と思うようになり、“そうじゃないやり方”を作るためにいくつかのビジネスモデルを考えて34歳のとき(2003年)に株式会社アイズを創設しました。
松井)起業後、以前に勤められていた会社と競合の日総工産と同じグループに入ることに複雑な気持ちはありませんでしたか?
荒井)日総工産は業界の中で常にリーディングカンパニーであり、真面目な人が多いと聞いていたので、悪いイメージはまったくありませんでした。知人の紹介で清水さんと藤野さんにお会いして「一緒にやろうよ」とお話をいただき、2024年にグループインすることになりました。
松井)私も日総工産で働きながら社員の皆さんのお人柄の良さを強く感じています。アイズの強みや特徴は何ですか?
荒井)アイズ自体はそんなに大きな会社ではないのですが、取引先には大手メーカーさんが多くいらっしゃいます。それでも取引先に対してひるまず意見を言うところが当社の1番の強みです。「言いたいことを言って、嫌なことは嫌とまっすぐ言える会社にする」というスローガンを以前は掲げていたくらいです。大手の下請けだからと言いなりになるのではなく、良いものは良い、違うことは違うとはっきり伝えることで、取引先との距離は縮まります。今となってはライバル社と比べられることはほとんどありません。
松井)そのスタンスを貫いてきたからこそ、そのような関係が作られてきたのですね。なかなかできることじゃないと思います。
荒井)売上を作る、という観点で考えたときに、取引先の言うことを聞くことも大事にはなりますが、ときには「取引先のやり方にはついていけない」と私たちから解約を申し出ることもありました。「物言う人材ビジネス会社」として新聞に取り上げられたこともあります(笑)

松井)株式会社アイズの今後の目標を教えてください。
荒井)これまでのスタンスは変わらず、日総グループ全体が良くなるために考えて意見もしながらやっていきたいと思います。「日総グループで新しいことを始めるなら、まずはアイズから」とも思っていただきたいですし、グループ、そして会社がよくなっていくために尽力していきたいです。
◎総合力で戦う—トレイルランニングに魅了されて
松井)塚田さんは、現在アイズでどのようなお仕事をされていますか?
塚田)FA事業部という部署で設計から資料作成など幅広く担当しています。
私がメインで行っている業務は自動車関連の物を持つための装置の設計です。実際の設計に入る前に構想段階の形で取引先への提案書を作り、それをもとに具体的な図面を作成しています。
そのようなエンジニア業務の責任者をしつつ、前職でデザイン系の職に就いていた経験を活かし、会社の販促品やポスターデザインも担っています。

★実際に塚田さんがデザインされたマフラータオル★
松井)ここからはトレイルランニングについてお伺いします。まず、これまでのスポーツ歴を教えてください。
塚田)北海道出身で、中学から高校までの5年間、自転車で山の中を走る競技(クロスカントリー)をしていました。学生ながら社会人チームに所属し、シリーズ戦にも出場しました。また、社会人になってからは、エンジン付きのバイクで行うエンデューロレースという山の中を走る競技も始めました。
松井)以前から山は身近な存在だったのですね。そこからトレイルランニングを始めようと思ったきっかけは何ですか?
塚田)もともとオートバイの大会に出るために足腰を鍛える目的でランニングをしていました。私が38歳の時、それを見た親戚から「毎日走っているなら大会に出てみたら?」と新聞に挟まっていたチラシを見せてくれました。それが山梨県の忍野高原トレイルレースで、“誰でも参加できます。楽しいですよ。” というキャッチーな内容でした。距離も30kmほどだったので、「これなら出てみてもいいかな。余裕で完走して、上位に入れるかも」と思っていました。
しかし実際は、倒れるかと思うほど過酷で…でも、それが楽しかったんです。結果はボロボロでしたが、夢中になってしまいました。自転車やオートバイのレースも楽しかったのですが、道具の性能にも左右されてしまう競技でもありました。どれだけ頑張っても良い機材を持っている人が速いことに悔しさを感じていました。
よりシンプルに道具をなるべく使わずに成果が得られ、靴もTシャツも、いってしまえば何でもいい。家の近所で毎日練習できる。そして何より、40歳になる前に本気で取り組めるもの。それが『トレイルランニング』でした。
松井)トレイルランニングでは、どれくらいの距離や標高差を何時間かけて走るのですか?
塚田)レースの長さは10㎞の短い距離や50㎞前後の中距離、100㎞~160㎞前後の長距離などがあり中には1000㎞を超える超ロングディスタンスまでさまざまなものがあります。
超ロングディスタンスで世界的に有名なレースの一つは、ピレネー山脈を舞台にした超長距離レース「GR10(グランド・ランドネ10)」です。
フランスの大西洋側から地中海側まで横断する960kmを半月ほどかけて行われます。
日本の最長距離レースは 「TJAR(トランスジャパンアルプスレース)」で、日本海から太平洋まで北・中央・南のアルプスをつなぎ、静岡まで約415km獲得標高27,000mを8日間かけて走破します。
トレイルランニングでは距離と獲得標高のバランスが重要になってきます。例えば同じ100マイル(160㎞)レースでも獲得標高が4000mというと“あまり登らない”レースに分類され、ゴールまで24時間前後で走り切れるイメージです。獲得標高が1万m以上となると“登りが多い”=山が高い、山が深いレースになり、32時間ほどかかります。同じ距離でも、どれだけ高い山が詰まっているかで難易度が変わるんです。
松井)あまり登らないといっても24時間は走っていますよね。寝る時間はあるのですか・・・?
塚田)自分のレース展開イメージとして200㎞前後を45時間までに走るレースで上位に入ろうと思ったら寝ずに走り続けます。寝るとしても、舗装道路区間で歩きながら意識を失うように一瞬寝る感じです。無意識のうちに一瞬「かくん」と寝て復活し、また12時間くらい走れるようになります。時間がある場合でも、木の下などで5分ほど横になるくらいです。僕は体質的に、2日間くらい寝なくても平気なんです。だから、夜になって他の選手が眠くて体調を崩している中でも自分は元気に動けていると、“こういうところが競技に向いているんだな”と感じられて、嬉しくなります。
松井)過酷ですね・・・。想像できない・・・。

松井)平地と山道では、走る時にどんな点が違いますか?
塚田)平地は平らな舗装道路、山はアップダウンがある登山道、というのが一番シンプルな違いです。平地はタイムを出すことを考えますが、山を走る場合はまず完走を目指し、安全に下山する。“順位は後からついてくる”というマインドで走っています。
長い距離を走ると、天候などいろいろなことが起きます。走力だけじゃない自分自身の力が問われるレースなので、総合的にいろんな経験を活かしてゴールを目指していくことになります。
◎ゴール到達にかけた1年
松井)塚田さんが一番達成感を感じる瞬間はいつですか?
塚田)正直に言うとゴールの200m手前だけです(笑)スタート直後はめちゃくちゃきついので、「なんでこんなレースにエントリーしたんだろう」、「もう今回で引退だ」とネガティブな感情になります。でも順位が少しずつ上がったり人を追い抜かす瞬間があったりすると、このまま行けるかなという感情になります。そこが楽しい。
松井)これまでの人生ベストランは?
塚田)直近では、京都で年末に開催されるノーマーキング、ノンストップの200㎞レースKYOTO GREAT ROUND、通称「KGR」です。
主催者の方が作るコースは難しく、タイムもギリギリに設定されます。山の中は膝までの積雪があり、2023年に挑戦した際は残り20kmぐらいで心身ともに限界が来てリタイアしてしまいました。それがとても心残りで、翌年にまたそのレースがあると聞き、1年間そのレースだけに集中しました。他のレースに出場したときはKGR 200km完走のための練習だと思って走りました。もちろん走りたくないときも、うまくいかないときもありましたが、リタイアした悔しさを糧に1年間毎日努力し続け、2024年は3位でゴールしました!集大成だったので嬉しかったですね。
アジアで最も過酷なレースの一つと言われるインドネシアで開催された「マントラ116」に出場し、4位になったことも思い出深いです。標高3300mまで登るレースで終盤つらく厳しい展開が続きます。海外だから言葉もよく分からないし、スコールも来る。おまけに豚や野犬がいるようなほんとに田舎の土地を、GPSウォッチの地図情報だけでひたすら走って。とても心細かったですが、ゴールしてみたら4位。後から結果がついてきた感じでしたがそれも達成感がありました。
ただ、全てのレースに思い入れがあるので、どれがベストランかは決められません。

★「マントラ116」挑戦中の塚田さん★
松井)想像もできないぐらい過酷な環境ですね。普段はどんなトレーニングをされていますか?
塚田)退勤後に2時間ほど走ったり、階段の登り降りをしたり高尾山を登ったりします。1か月の総走行距離が500㎞、累積標高が2万mくらいになると「良いトレーニングが詰めたな」とほっとします。
松井)仕事終わりにそんな体力があるなんて・・・!大会にはどれくらいの頻度で参加されますか?
塚田)2ヵ月おきぐらいに参加します。長い100マイルのレースに出たあとは1ヶ月ぐらいで体を元に戻し、ベストパフォーマンスな状態まで持ってくために1ヶ月ぐらいは練習のボリュームを上げて調整します。
松井)体が回復するまでの期間はお仕事に影響は出ないのですか?
塚田)影響がないといえば嘘になりますが、週末のレースが終わったあとは、月曜日からどんなに疲れていても会社に行くのが僕のポリシーです。レース後は足がすごく痛くなるので、階段はお年寄りよりゆっくりのペースになるため、いつもより少し早く家を出て出勤します。仕事中は座って仕事をしていると眠くなるので立って仕事をしています。初めて見た方は驚かれますが、これが許されていることは会社からの支援の1つなのかもしれません(笑)
◎過酷な状況を乗り越える強さ—トレイルランニングが人生を変える
松井)今秋大きな大会に出場されるとお聞きしましたがどんなレースですか?
塚田) メキシコのチワワ州で開催される 「Chihuahua by UTMB」という大会です。コッパーキャニオンという標高が2500m~3000mほどの渓谷にタラウマラ族という“走る民族”がいます。
彼らは娯楽として走ることが生活の一部になっているという民族で、その人たちと一緒にレースを走ります。
タラウマラ族にはサッカーでいうペレのようなトレイルランニング界のレジェンドがいるんですよ。ミゲールララやアルヌルホといったヒーローが生まれ育った土地で、以前NHKの番組でその様子を見て「こんなところがあるんだ」と憧れた場所を実際に走るレースです。
ただ、今年は9月納品の仕事あるため、行けないかもしれません。僕は仕事があってこその趣味だと思っているので、仕事をしっかりやったうえで、行けたらメキシコに行きたいと思っています。

松井)トレイルランニングを行うことで、精神的に影響することはありますか?
塚田)仕事で大変になった時でも「アルプスの標高3000mくらいで夜中に雨風に吹かれてテントの中が膝まで水浸しになってガタガタ震えている状況よりはマシかな」と思えます。ありとあらゆる過酷な状況が襲いかかってくる、血の味がしながら走るような経験に比べたらまだ良いなと。
趣味なので命をかけてやるものではありませんが、自分が決めた目標に対してどんなに過酷な状況でも限界まで突き詰めて楽しもうと思えるようになりました。物事を冷静に考えられるようになりましたね。
松井)今後の目標があれば教えてください。
塚田)趣味で始めたことなので、なるべく長く楽しめればいいですね。走ることは1人でもできますが、走っていると仲間ができて、輪が広がり人生が変わりました。荒井社長もよくおっしゃっていますが、“人との繋がり”を大事にしたいです。
そして、長距離レースで上位に入って完走しながら、まだ知らない海外の土地や空気を走ることを通して感じたいです。
足が動かなくなったらボランティアとしての参加など、トレイルランニングとの関わり方は年齢とともに変わっても、何らかの形でこの業界に携わっていけたらと思います。

松井)荒井社長にお聞きします。塚田さんのような社員がいることはどう思われますか。
荒井)アイズは社員1人1人の個性を潰さないやり方でやってきました。仕事とプライベートを両立させ、社員を束縛しない社風ですので、プライベートでどんな格好をしていようと、どんなことをしていようと、なにも思いませんし、自由にしてもらって良いと思います。
塚田はスポーツ採用ではないため、彼が朝礼で行うスピーチで初めてトレイルランニングを知りました。馴染みのないスポーツだったので、最初はどんな風に応援していいかも分かりませんでした。でもある大会で良い順位を取ったと聞いて、「そのおかげで今度こっちのレースに出場できるんです。次はメキシコに行こうと思っています。」という話になりました。それなら「俺も応援に行きたい。スタート地点とゴールに行くので、その他の時間は飛び込み営業して待っているね。」と話しました。塚田の仕事はエンジニアなので絶対に納期に追われます。そこは会社側が調整してあげられませんが、その辺は割り切ってくれてとてもありがたいです。だからこそ塚田がレースに挑むときは全力で応援しようと思っています。

★取材に協力してくださった荒井社長(右)と塚田さん(中央)★
私にとって全く未知の世界だったトレイルランニング。
マラソンと登山の組み合わせ!?キツい事にキツい事を組み合わせたってキツいだけじゃん!!と思っていた私ですが、話を聞いてみて想像以上に過酷な状況に驚き…。ですが、過酷な環境を乗り越える中にこそ楽しさがあり、人は強くなっていきます。
ゴールという目標のために1年もの時間をかけられるほどの情熱は厳しい環境があるからこそ生まれるものであると思います。苦しいことほど、乗り越えたときに見る景色は綺麗で忘れられないものです。自分の限界に挑戦しながらやるべきことの責任もしっかりと果たす塚田さんと、個性を活かし社員を全力で応援・サポートする荒井社長はじめ株式会社アイズの皆さん。人との繋がりを大切にする心と会社の温かさを感じました。
トレイルランニング、サッカーに必要な要素のトレーニングにもなるそうです。
・・・1度挑戦してみようかな!?